韓国のモンスターたち

torippi2006-09-04

まずはお断りから。これから「グエムル」を観ようと思ってる人は読まないで!
多分ネタばれにしちゃいます。


そう。「グエムル 漢江の怪物」を観てきました。
ポン・ジュノ監督の最新作。「ほえる犬は噛まない」もよかったけれど、
殺人の追憶」を観てやられてしまったポン様(笑)。今回もエネルギーに満ちあふれた
ものをぶちかましてくれました。


いわゆる怪獣映画といってはいかんです、無力な人間たちが、必死で生きて、必死だからこそ
いっぱい失敗してすごいカッコ悪くて、でもがむしゃらにモンスターに立ち向かっていって、
それでもやっぱり無力で…。
実際、無力たと思う。人って。地震がきたら、きっと壊滅状態になるし、津波がきたらひとたまりも
ない。トムみたいなスーパーヒーローなんていない。そんな夢を叶えるのが、ハリウッド映画で、
この作品を観た人は、カタルシスを得ることはできないかもしれないけど、
生きるってことに対して意識をもたせてくれる作品です。


韓国の映画(というかポンさんの映画)は、生きるということを凄く生々しく描く。
それは、衣食住ということで、生きるために食って、排せつして、寝て、、という行為を繰り返して
いくことで、生きるための行為をそのままに描いていく。


彼は、スピルバーグを敬愛しているみたいだけど、彼の描く人間は、スピルバーグの描くそれとは
全く違う。
例えば、劇中で娘を救うために、ソン・ガンホ演じる父は彼の弟のパク・ヘイル、妹のぺ・ドゥナ
彼らの父親の、ピョン・ヒボンと力を会わせて、モンスターと闘うのだけど、
闘いの半ばで、ソンさんのミスで、銃に弾が入ってなくて、自らの父をモンスターに殺されてしまう。
雨の中、血まみれになって死んでいる父、でも、彼らの追っ手も来ている…。逃げなくては…。
そんな時、ソンさんのとった行動は、死んだ父の顔の上に、その辺に落ちている新聞紙を顔にかけて
逃げるのです。
でも、思いとどまって戻ってきて、追ってに捕まってしまうのです。


他の人の作品だったら、きっと「わぁーーーー!!」と、亡骸を抱きしめて雨のなか叫んでいるところを
捕獲される。という流れでしょう。


しかも、悲しいシーンも凄く滑稽に描く。
悲劇と喜劇の紙一重さをここまでやるか!ってくらいに描く。
しかも、特に韓国の方は感情表現が豊かだから、よけい滑稽になる。


最後の闘いでも、すごく盛り上げる音楽がかかってるのに、モンスターに全然攻撃が当たらないんです。
何度も、何度も、立ち向かうんだけど、全てが的外れで。
それが凄く、冷たい目で現実をみつめている彼の視線を感じさせて、皮肉なんだけど、、感動させて、
もの凄いセンスだな。と、思ってしまう。私はここで、泣いてしまった。


この作品にかんして、「最後、娘を死なせない方がよかった」と言う人が多いけれど、私はそうは
思わない。ここで、また彼らが変化した状況を生きていく。ということを描いていっていると思う。
生きる事に、執着があるのだ。


黒沢清監督が言っていたけれど、「ハッピーエンドって、一番最初と同じ状況になることじゃない。」
と。変化して、変化し続けて、でも生きていくことだって思う。私もそう思う。


韓国の映画は、本当にクオリティが高いものがある。
作り手のなみなみならない、想いと、人を楽しませるという命題をクリアしたものが。

ハリウッドの持つ撮影技術と魅せ方の技術を持ちながら、まったく違う味付け
のモノを出せるのは…韓国映画だな。と思ってる。